2021年。
ビットコインを、国の“法定通貨”として採用。
エルサルバドルという小国が、世界の金融史にその名を刻みました。
この決定は、世界中に衝撃を与えました。
しかし——2025年。
ビットコインの法的地位は、実質的に撤回されます。
いったい何があったのか。
その経緯には、ビットコイン投資家が“知っておくべき”事実が、隠されていました。
この記事では「エルサルバドルという国家」と「ビットコイン」の関係、IMFの陰謀
その大胆な挑戦と、その後の可能性を追っていきます。
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✅ 出典・主要参考文献
-
- 金利の「主権」手放した中米エルサルバドル 自国通貨あきらめ「ドル化」した恩恵と弊害|朝日新聞GLOBE+
- IMFの概要|財務省
- エルサルバドル共和国|外務省
- TBS NEWS DIG Powered by JNN(YouTubeチャンネル)
- 【動画】前代未聞のエルサルバドル「刑務所ビジネス」受刑者収容の見返りに8.5億円 “世界最恐ギャング”専用「テロリスト監禁センター」
- 【動画】殺人に誘拐…凶悪犯罪 “世界最恐”ギャング刑務所の実態 「世界一治安が悪い国」エルサルバドルが“ギャング撲滅作戦”で激変も…
- エルサルバドル大統領、米国から強制移送されたベネズエラ人の「囚人交換」持ちかけ|CNN Japan
なぜビットコインを法定通貨に?
まずは、舞台となるエルサルバドルという国について、少しご紹介します。
この国は中央アメリカに位置し、人口はおよそ600万人。
面積は、九州のおよそ半分という小さな国です。
2010年代には世界で最も治安が悪い国と言われていました。
エルサルバドルは「コロン」という自国通貨を使っていましたが、 2001年からは米ドルが法定通貨に採用されました。
コロンは実質的に廃止されることになったのですが、この通貨政策の背景については、また後ほど触れます。
そんなエルサルバドルには、課題がありました。
それは 「国民の約7割が、銀行口座を持っていない」ことです。
さらに、自国での主要な収入源はコーヒーや繊維分野で、産業基盤は脆弱でした。
多くの国民が海外で働き、家族に仕送りをするという構図が一般的になっているのです。
しかし、送金には高額な手数料と、時間がかかるという壁が立ちはだかります。
そんな状況を抜け出すために、政府が打ち出した一つの策が——
ビットコインの活用でした。
前回の詳細記事はこちら
ビットコインを法定通貨に採用した意義
そして、歴史が動いた。
2021年6月9日。
この日、エルサルバドルの国会で「ビットコインを法定通貨とする法案」が可決されたのです。
これまでビットコインといえば、
“投資”や“資産”として扱われてきた存在。
当時は、米国での現物ビットコインETFの取り扱いもなく、信頼性も現在よりも低い存在でした。
そのビットコインが、“米ドルと並ぶ、正式な通貨”として採用されるというニュースは、世界に衝撃を与えました。
もちろん、私も例外ではなく。
この瞬間からエルサルバドルという国に、がっつり心を掴まれたのを覚えています。
「ビットコイン法」と呼ばれるこの法律は、可決から90日後に正式に施行されました。
そして、2021年9月7日。
世界の国家として初めて、エルサルバドル政府は200枚のビットコインを購入したのです。
そのスピード感は、まさに政治版スタートアップ。
そして、法案の内容も、まさに革命的でした。
・商品の価格をビットコインで表示してもOK
・税金の支払いにもビットコインが使える
・ビットコインで得た利益には、譲渡益課税がかからない
・ただし価格基準は、あくまで米ドル建てで表示される
・そして最も重要なのが——
全国すべての商店や事業者が、ビットコインでの支払いを“拒否できない”という点です。
つまり、エルサルバドルにおいて、ビットコインは
本物の「お金」として、全国民が日常的に使える状態が整えられたのです。
ここで少し振り返りましょう。
通貨には三大機能があります。
交換機能、価値尺度機能、価値貯蔵機能の3つです。
全国の事業者が、ビットコインでの支払いを“拒否できないということは、通貨の要件のうち、交換機能が満たされたということです。
この試みは、まさに国家をあげた「金融の再設計」といえるでしょう。
当時はビットコインの相場が上昇していたこともあり、この法律を可決させたブケレ大統領は、世界中のビットコイン投資家から英雄のように賞賛されました。
めでたし、めでたし…
でも——
物語は、ここで終わりません。
理想はよかった。
けれど、現実はもっと手ごわかった。
ビットコインの決済システムはなかなか普及せず、
「使えるけど、使われない」状態が続きます。
さらに追い打ちをかけるように、
法案通過の数か月後からビットコイン価格が大きく下落。
ピーク時に買った国のビットコイン保有分は、あれよあれよと含み損に転落。
そして、忘れちゃいけない存在——
通貨の監視人、IMF(国際通貨基金)もこの動きに苦言を呈します。
「そんなボラティリティの高い通貨を国の通貨として使うなんて正気か?」
IMFの正体と執拗な圧力
エルサルバドルがビットコインを法定通貨にした年も、その翌年も、
IMFは懸念を示します。
「やめときなはれ」や、と。
IMFは毎年、加盟国の経済状況について協議する「4条協議」を実施しています。
これは協議という名の監視の意味もあるかもしれません。
2022年の協議でも、IMFはこのように指摘しています。
「ビットコインを法定通貨から外せ。金融の安定性が脅かされます」
その理由としては様々な点が挙げられます。
・金融システムの安定が損なわれる
・エルサルバドルの経済が縮小している一方で、公的債務は拡大
・マネーロンダリングの温床になる恐れ
・消費者保護が不十分
ビットコインのリスクを主張する意見、一見、もっともらしいですね。
しかし、本当にそれだけでしょうか?
ここで、少し時間を巻き戻しましょう。
1944年、第二次世界大戦の終盤。
アメリカのブレトン・ウッズで開かれた国際会議。
ここで、世界の通貨秩序を再設計する合意がなされました。
キーワードは「米ドルの基軸通貨体制」。
IMFはこの会議での協定に基づき、1945年12月に設立されました。
1944年、アメリカのブレトン・ウッズで開かれた国際会議。
ここで、世界の通貨秩序を再設計する合意がなされました。
キーワードは「米ドル基軸通貨体制」。
つまり、IMFはその枠組みの守護者として誕生した組織。
裏を返せば、IMFの“使命”とは、ドルを中心とした金融システムを守ること。
そこに突如現れた“無国籍のデジタル通貨”、ビットコイン。
発行体もいない、中央銀行もいない、政府の管理すら効かない。
作成者のサトシナカモトは何者かもわからず行方不明。
IMFから見れば、ビットコインは米ドル覇権体制の“秩序破壊者”そのものなのです。
だから彼らは言います。
「国家経済のためにやめろ」と。
でもそれは果たして“経済”のためなのでしょう?
それとも“米ドルの支配構造”のためなのか?
IMFは、執拗に、同じ言葉を投げかけました。
「法定通貨としてのビットコインは危険だ」
「今すぐ地位を取り消せ」
この「圧力」を受けて、
2025年、エルサルバドル政府は、苦渋の決断を下します。
そこには国家が抱える2つの“矛盾”があったのです。
米ドルとビットコインのあいだで揺れる国家
矛盾1:米ドル依存体質なのに、ビットコインを採用
エルサルバドルは自国通貨を放棄し、米ドルを公式通貨として採用した「ドル化国家」です。
これはインフレ抑制や外国投資の誘致といったメリットを得るための判断でしたが、同時に「金融主権」を手放したということでもあります。
自国で金利をコントロールできず、通貨政策もアメリカ次第。 そんな状況の中で、ビットコインという“反ドル的な存在”を法定通貨に据えたのです。
これはまさに、米ドル体制への静かな反旗。
しかし――
国家財政は、IMF=米ドル体制側からの融資に依存しています。
ビットコインを掲げながらも、背に腹はかえられない。
その矛盾が、ついに表面化しました。
2025年1月。
エルサルバドルはIMFとの14億ドルの融資契約をまとめるために、ビットコイン法の一部を改正しました。
民間企業によるビットコイン受け入れの「義務」を撤廃します。
対応は「任意」となりました。
これでビットコインの立場は、事実上“格下げ”されました。
法定通貨とはいえないでしょう。
ビットコイン政策が、融資条件に屈した瞬間です。
エルサルバドルは「米ドル」を選ばざるを得ませんでした。
「脱ドル」を掲げながら、ドルなしでは生きられない現実がそこにありました。
皮肉なことに、ビットコイン導入で得られたはずの“主権的な通貨選択”は、IMFという“融資装置”の前に脆くも崩れました。
ビットコインの価格は期待されたほど伸びず、
国としての新たな収入源も確立されないまま。
結局、頼れるのはドル=IMFからの支援です。
IMFは今後の追加融資に際しても、ビットコインに対する制限を要求する姿勢を崩していません。
たとえば、
・政府のビットコイン保有量に上限を設ける
・新たな購入を制限するルールの導入などです。
こうした“通貨の選択権”そのものに対する圧力は、
もはや市場の安定性という建前を超えているのではないでしょうか。
それでもエルサルバドル政府・議員はビットコイン政策を「続ける」と言います。
・ビットコイン購入の継続
・子ども向け金融教育
・ビットコイン関連の書籍の普及
・開発者育成プログラムの拡充
ビットコインの法定通貨としての地位は、たしかに撤回されました。
しかし、それは国家の意志まで引き下げられたことを意味するでしょうか?
表向きは一歩引いたように見えるその姿勢も、もしかすると──
次のステージに向けた“静かな前進”なのかもしれません。
エルサルバドルは今、外貨獲得の新たなルートを模索しています。
アメリカから不法移民を“受け入れる”という形で、刑務所ビジネスを検討するその姿は、善悪を超えた国家戦略のにおいが漂います。
ビットコインは自由か、それとも支配か
ブケレ大統領が進めるビットコイン戦略とは、果たして分散の理想か、中央集権の夢なのか。
ビットコインとは、本来──
中央に依存せず、誰にも支配されない、自由な思想の象徴でした。
そのビットコインを集めているのは、
国内支持率90%超えの“絶対的な中央集権の独裁に近い国家”です。
ギャングが日常を支配していたこの国は、治安最悪と呼ばれた2015年。
ブケレ大統領が就任した2019年、国家はギャング撲滅作戦という強硬策に打って出ました。
街からギャングが消え、数年で「中南米で最も安全な国」へと変貌。
殺人発生率も劇的に減少しました。
その成功を背景に、ブケレは盤石な支持を得て、
そして“国家によるビットコイン購入”という世界初の政策に踏み出したのです。
もしもここが民主主義国家だったなら──
「国民の理解が〜」という名のブレーキが、すべてを止めていたかもしれません。
先に進む者は、いつだって孤独です。
イノベーターと呼ばれるその足跡には、
時として“独裁”というレッテルが貼られることもあるでしょう。
国内にも問題は多くあります。
ギャング撲滅の政策は、冤罪が続出し、罪のない人たちも刑務所に収容されているという現実もあります。
それは、非常に中央集権的な国家運営でしょう。
ビットコインという“分散”の象徴を、中央集権の国家が保有するという
この強烈なジレンマの中で──。
複雑な心境。
複雑な矛盾を抱えながら、
エルサルバドルは今、まさに歴史の転換点に立っています。
これが果たして、国を変える“一手”となるのか──
それとも、“独裁者の暴走”に終わるのか。
答えは、まだ誰にもわかりません。
革命は、静かに始まる。
理想の名のもとに──それが独裁であっても。
世界は今、問いを突きつけられています。
ビットコインは、自由なのか。
それとも、支配の道具になるのか。
そして、エルサルバドルは──
果たして未来を照らす“光”となるのか。
それとも──
新たな“影”の始まりなのか。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
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